朝、が目を覚ますとそこには彼女そっくりの女性が腕の中で寝息を立てていた。
「・・・え?」
起き上がり、じっと女性を見つめる。機械鎧の左腕、腰まで伸びた赤茶の髪、全てが同じだった。
(どういう事・・・?昨日は兄貴のベットで一緒に寝て・・・寝て?)
は起き上がり、あたりをキョロキョロと見渡した。
ベッドのすぐ脇にある姿見を見て、彼女は驚愕した。
「のわ〜〜〜〜!!!」
そして絶叫。
「・・・どうしたのだ・・・?」
「兄貴!!目ぇ覚ませ!!大変だ!!」
「何・・・は?」
ロイは目を擦り、を見た。
「わた・・・し・・・?」
「何で兄貴が俺になってるんだよ・・・ι」
そう、とロイの躰が入れ替わって居たのだ。
「取り敢えずは仕事に行かなきゃ仕方が無いだろう・・・ι」
「それはわかるけどさ・・・事件でも起こったらどうする?俺、焔の錬成なんてできねぇぞ。」
「私も風の錬成なんて出来ん。」
互いの姿を見て、溜め息を吐く二人。
「兎に角着替えなきゃ・・・」
「そうだな・・・、軍服は何処にあるんだ?」
「部屋のハンガーに掛けてある。」
「わかった。」
そう言うとの姿をしたロイは、彼女の部屋に行った。
「一体どうなってんだよ・・・ι」
そんな事を呟きながらはロイの軍服に袖を通した。
着替えが終わり、食事の支度をする為キッチンに立つ。
「、Yシャツは無いのか?」
「アンダーの上に着ろよ。」
「あぁ・・・」
そう言って、はロイにシャツを手渡した。
「でも、何で俺等の躰が入れ替わってんだろう・・・?」
「私もさっぱりだ・・・ま、その内何か思い出すだろう。それまでは互いに成り済ますしかないだろう・・・」
「そうだな・・・っと、兄貴はこれ持っといた方がいいだろう?」
そう言ってポケットの中から発火布を取り出した。
「あぁ。はどうするのだ?」
「俺は・・・前に使ってた練成陣入りの指輪でもするよ・・・
原理がわかってれば取り敢えずは平気・・・かと。」
物凄く不安そうに言う。
「ためしに私が錬成を行ってみればいいのではないのか?」
「あ、それもそうだね。」
灰皿の上に小さい紙切れを乗せ、ロイはそれに向って指を擦った。
ボォっと燃え、炭になる紙切れ。
「取り敢えずは錬成できるみたいだな・・・」
「よかった・・・んじゃ、朝飯、朝飯♪」
「呑気だな・・・ι」
コーヒーを啜りながらロイは呟いた。
は朝食を取ると、自室へ行き指輪を取り出した。
「・・・どの指に入るんだろう・・・」
自分の体の場合、何時も中指にしていた指輪。
「あ、入った。」
案の定、右手の小指に入った。
「これでよし・・・と。」
自分の上着とロイの上着を持ち、はリビングへ向った。
「兄貴、そろそろ行くぞ。」
「あぁ、もうそんな時間か・・・」
此処から波乱な生活が始まった。(笑)
「おはよう。」
「おはようございます。大佐、中佐。」
「おはよう。中尉。」
互いに成り済まし、ディスクに着く。
「今日はこれだけやってもらいますからね。」
リザに渡された書類は10cmはある。
「・・・本気か?」
「本気です。」
溜め息を吐きながらはロイの仕事をした。横目でロイを睨みながら。
「・・・大佐が真面目に仕事してる・・・」
「私が仕事をしていたら可笑しいというような物言いだな。ハボック。」
極力不自然にならないようには言った。
「いや・・・そう言う訳じゃ・・・」
額に汗を書きながらハボックは自分の仕事に戻った。
「中佐・・・どう思いますか?」
目の前に座る、ロイにハボックは話し掛けた。
「いや・・・たまには仕事をして貰わないとこちらとしても困るからな・・・」
少しオドオドしながらロイは答えた。
「・・・今日の中佐も変っスよ。」
「そ・・・そんな事は無いぞ。」
「・・・喋っていないで、二人も仕事を片したらどうだ?」
眉間に皺を寄せながら二人を見る。
「は・・・はい!!」
怯えるハボックとは対照的にロイは溜め息を吐いた。
「・・・中佐、君は仕事をする気が無いのか・・・?」
(兄貴!!俺の仕事ちゃんとしてくれ!!)
アイコンタクトでロイに語りかける。
(私が仕事をきちんとすると思うか?)
にやりと笑いながらアイコンタクトを送るロイ。
怯える司令部の面々。
「中佐・・・覚悟は出来ているか・・・?」
そう言って、右手を顔の位置まで上げた。
「消し炭にされたいみたいですね。大佐。」
同じく右手に発火布をつける。
それを見て疑問に思う司令部の面々。
「何かさぁ・・・」
「中佐と大佐・・・なんか逆だよな。」
――ギクッ!!
「そ・・・そんな事は無いぞ。なぁ、中佐。」
「あ・・・えぇ、そうですね。」
ぎこちない笑みを浮べながら言う二人。
――ガチャ・・・
「大佐〜〜居るか〜〜?」
「鋼の!」
「エド!」
「・・・は?」
思わず口に手を当てる二人。
「・・・今俺の事『鋼の』って呼ばなかったか?
それに大佐が俺の事『エド』って言ったような・・・」
「「気のせいだ!!」」
口を揃えて否定をした。
「そうか・・・?まぁ良いや。
はい、大佐。報告書。」
「あぁ・・・」
エドから報告書を受け取り、読み始める。
「・・・・・・」
「どうした?鋼の?」
今度は間違えずにちゃんと言う。
「何時もなら何か嫌味言ってくるのに・・・今日は無いなんて珍しいじゃん。」
「そうか・・・?」
「あぁ、なぁ、大佐どうしたんだ?」
ロイの方を向き、エドは問い掛けた。
「私にもわからないな・・・」
「・・・も変。」
「ど・・・何処が?」
「何時も俺と話す時はプライベート口調なのに・・・やっぱり二人とも変だ。」
二人の顔を交互に見ながらエドは言った。
「そうだよな・・・中佐は発火布着けるし、大佐は指輪つけてるし・・・」
「一体何があったんですか?」
そう言って詰め寄ってくる部下's。
「ちゅ・・・中佐!!少し休憩にでも行くか!?」
「は、はい!!」
そう言って、司令室から逃げる二人。
「やっぱり変だ・・・」
頭に疑問符を浮べながらエドは二人の後を追った。
「・・・やっぱり隠し切れないのではないのか?」
「そんな事言っても・・・仕様がないと言ったのは君だろう?」
休憩室でも何処の誰が見ているかわからない為、仕事中の口調を崩さない。
「・・・・・・胸ポケットの中に煙草があっただろう。一本寄越せ。」
自分の名を躊躇いながら呼ぶ。
「煙草は身体によくないと、あれだけ言っているだろう?」
そう言いながらも煙草を渡すロイ。
「少し気を落ち着かせないとどうし様もないだろう・・・」
煙草を一本取り出し、火をつける。
「さて・・・本当にどうするべきか・・・」
紫煙を眺めながらは呟いた。
「この際、話した方が楽では無いのか?」
「絶対却下。・・・マースなら何か知ってるかも・・・」
ボソッと呟いた。そして何を思い出したのか通信室に走って行った。
「ちょ・・・大・・・まったく・・・」
溜め息を吐きながら駆け足でを追った。
「・・・何か思い出したのか?」
「此処では大佐だろ?マスタング中佐。」
「もう、どうでもいい。で、何を思い出したんだ?」
走りながら話す二人。
「昨日飲んだ紅茶があっただろう?
あれはマースから貰った物なんだ。」
「・・・成る程な・・・で、マースに電話を。」
「そう言うこと。さっさと戻りたいしな。」
そう言って二人は通信室に駆け込んだ。
「こちら軍法会議所。」
「マスタング大佐だ。至急ヒューズ中佐に繋いで欲しい。」
「わかりました。」
短い保留音の後、ヒューズの声が聞こえた。
「マース!!貴様!!」
『な・・・何怒ってるんだ?ロイ?』
「貴様が先日渡した紅茶が合っただろう!!
『面白い事が起きる』とか何とか言って!!」
『あぁ、に渡した紅茶な・・・飲んだのか?お前。』
「昨日飲んだ!!言って置くが、私はだ!!」
暫しの沈黙。
『・・・マジ?』
「大マジだ!!」
「・・・私に変われ。
マース。私だ。ロイだ。」
『・・・躰が入れ替わったのか・・・?』
「あぁ・・・どうにか元に戻る方法は無いのか?」
『・・・いや・・・あるにはあるんだが・・・』
「簡潔に答えろ。」
『・・・・・・』
再び沈黙。
「マース?」
『いや・・・あのな・・・』
「あるならさっさと言え。消し炭にするぞ。」
『言うから、落ち着けι
その・・・な・・・『キス』しなきゃいけないんだよなぁ・・・』
「はぁ?」
大声で聞き返すロイ。
『いや・・・の事だからエドにでも飲ますだろうな〜〜って思って・・・』
「ちょっと待て!!それしか方法は無いのか!?」
『それか・・・一週間待つか・・・それが嫌ならキスになるぞ。』
「私にを襲えって言うのか!!!!!」
大声で叫ぶロイ。勿論東方中に響くような大声で。
「馬鹿兄貴!!貸して!!
どういう事なの?パパ?」
『いや・・・さっきロイが叫んだ通りで・・・』
「・・・パパの馬鹿。嫌い。」
『ちょっと待て!!!!』
――ガチャン!!
勢いよく、は受話器を置いた。
「・・・兄貴・・・どう言う事かじっくり説明・・・」
「!!さっきの叫び声は何だ!!!!」
通信室の扉から勢いよく出てきたのはエドだった。
「いや、何でもないんだ。鋼の。」
「でもさっきの声で『私にを襲えって・・・』って聞こえたんだけど・・・」
「気のせいだ。さ、中佐。二人きりで話せる所に行こうか?」
「あ・・・あぁ・・・」
エドを置いて、二人は誰も居ない大佐専用の執務室に向った。
「・・・んで、どう言う事だよ・・・兄貴・・・」
「この効力が一週間らしい・・・」
「一週間も!!」
「すぐに戻る方法もあるのだが・・・」
次の言葉を出せば確実にの鉄拳が振って来ると思ったロイは、口篭もった。
「さっき叫んでたアレ?」
「あ・・・あぁ。『キス』をすればさっさと戻るらしい・・・ι」
「どっちも嫌だなぁ・・・
でも、このまま一週間も隠し通せないし・・・てか、その前に絶対旅に出るし・・・」
は頭を抱えながら悩んだ。
「・・・兄貴はどっちにしたい?
俺に成り済ましてエドと旅をするか、この場でキスして終らせるか・・・」
「皆に事情を話すという手は無いのか・・・お前は。」
「・・・それもそれで嫌。」
「どうするか・・・」
そう言うとソファーに凭れ掛かった。
「兄貴・・・じっとしててくれるか・・・?」
「は?」
はそう言うとロイの横に腰をかけた。
「これで終わりに出来るなら、やるしかねぇだろ?」
ガシッと顔をつかまれたロイ。
「ちょ、ちょっと待て!!私にも心の準備と言うものが・・・」
「知らねぇよ。そんな事。」
唇を近づけ、キスをしようとした時・・・
「大佐、失礼します。」
リザが入ってきた。(笑)
二人の行動を見て、手に持っていた書類を落とした。そして、銃を取り出し安全装置を外した。
「何をやっているんですか・・・?大佐。」
「いや・・・これには訳が・・・ι」
額に汗をかきながらはロイから離れた。
「大佐・・・?」
リザの顔はまさに修羅。彼女を落ち着かせようと、ロイが口を開いた。
「・・・中尉には話しても良いだろう・・・?」
「・・・もういい・・・どうにでもして・・・」
部屋の隅でいじけたように膝を抱え蹲る。
ロイは溜め息を吐きながら事の成り行きをリザに話した。
「そう言う事でしたか・・・」
「他の者には他言無用で頼みたい。」
「ですが・・・大佐、エドワード君と旅に出るおつもりですか?」
「・・・無理だな。だからと言ってとキスをするのも・・・」
蹲っていたが回復し、ロイに近付いた。
「じゃぁさ、暫く此処に居るように説得すれば良いじゃん。」
「・・・そういう手もあったか・・・」
顎に手を当て、この後の段取りを一人組むロイ。
「取り敢えずはエド呼んで来ないと話にならないね・・・」
「そうだな。中尉、鋼のを此処に呼んできてくれないか?」
「わかりました。」
そう言うとリザはエドを呼びに向った。
数分後、エドが執務室に入ってきた。
「大佐、俺に用って何?」
「鋼の・・・君に少し手伝って貰いたい事があるんだ。」
「はぁ?」
ロイのふりをし、は話し始めた。
「此処暫く、が旅に出ていた為資料の片付けがされていなくてね・・・
と一緒にやってくれないか?」
「嫌だ。俺はそれどころじゃないの。他あたれ。」
「そうか・・・ならだけ置いてって貰おうか?」
口の端を吊り上げながらは言った。まるでロイのように。
「恋人同士だからな・・・離れるのは嫌じゃないのか?鋼の。」
「・・・・・・」
心の中ではエドに謝罪をしながらも話す。
「ま、合流できるのは遅くて一週間位後になるとは思うが・・・どうする?鋼の。」
「さっさと終らせればそれだけ早く出発できるのか?」
「早く終れば・・・な。」
「なら、さっさと終らすまで!!!!行くぞ!!」
そう言ってエドはロイの腕を引っ張った。
「いや・・・わ・・・俺はまだ・・・別の仕事があるから・・・」
のふりをしようと精一杯言葉使いを変えるロイ。
「と、言う事だ。明日から整理を始めてもらう。わかったな。鋼の。」
「んだよ・・・だって早く終らせたいだろ?」
「そりゃ・・・俺だって早く終らせたいけど・・・仕事も片付けなきゃいけないし・・・」
「わかったよ・・・んじゃ、明日な。」
微笑みながらロイを抱き締めるエド。
「は・・・エド・・・ちょっと・・・離せ・・・」
「恥ずかしがる事無いだろvV」
腕の力を強め、離れないように抱き締める。
「・・・鋼の・・・そのぐらいにしろ。」
少し嫉妬をしながらも、エドに言う。
「やだ。」
「エド!!離せ!!」
ロイはエドの腕の中で叫んだ。
「そんなに嫌がる事ないだろ・・・」
「今はそんな気分じゃないんだ!!」
抵抗を始めるロイ。仕方なくエドは腕の力を弱めた。
「やっぱり今日の変だぞ?」
悲しそうな顔をしながらエドは言った。
「やっぱりエドには話しておくべき・・・だよな・・・」
はため息を吐きながらエドの近くへ歩み寄った。
「それでは君が・・・」
「分かってる。でも、これ以上黙っておく事は俺には出来ない・・・
エドの悲しい顔・・・見たくないもん・・・」
「一体・・・どういう事なんだ?」
話し方が違う双方を見ながら困惑した顔をするエド。
「実はな・・・兄貴と躰が入れ替わったんだ。」
「は?」
「私はそういう非科学的な事は信じたくないが・・・実際身を持って体験しているからな・・・ι」
額に汗をかきながらロイは言った。
「それで、元に戻るのが一週間なんだって。
でも、さっさと戻れる方法もあるんだけど・・・ね。」
「どんな方法なんだ?」
「・・・キス・・・だってさ・・・」
「はぁ!?」
大声で叫ぶエド。
「だから・・・さっさと戻ろうと思って・・・兄貴・・・を押し倒したんだけど・・・ι」
「中尉に見つかって、殺されるところだった、と言う訳だ。」
「・・・はたから見たら、大佐がの事襲ってるみたいだからな。」
大きなため息を吐きながらエドは頭を抱えた。
「・・・待つよ・・・」
「え・・・?」
「一週間だろ?それまで待つよ。」
「エド・・・ありがとう・・・」
頬を赤らめながら、は言った。
「あ、先に言っておくからな、大佐。」
「何だ?」
「には抱きつくからなvV」
「・・・は?」
「だぁかぁらぁ、大佐の姿をしたに抱きつくから、そのへん宜しくなvV」
エドの言葉を聞き、ロイは勢いよく立ち上がった。
「それは断じて許さん!!司令部内に変な噂が流れるだろう!!」
「いや・・・俺は別にいいけど。」
「・・・」
は立ち上がり、後ろからエドを抱き締めた。
「だって、何時も傍に居たいし。俺が被害受けるわけじゃないから。な。エド。」
「そうそう。だから、頑張れよ。大佐。」
「んじゃ、エド。何か食べに行こうか?」
「お、いいね。行こう行こう。」
「ちょっと!!待ちたまえ!!君達!!!」
ロイの言葉を無視し、執務室から出て行く二人。
その後、元に戻ったロイは、女性からデートの誘いを断られ、ハボック達には『大佐はホモだ』と言われ、数週間苛められたとか・・・
END。
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